J&K邸 基本設計 その1 いきさつ

今回ひょんなことからノルウェーにおいて、知人の家の基本設計を担当することとなり、
日々励んでいる。
今回は、そのいきさつを紹介させていただければと思う。

クライアント(建築主、施主)のJさんは、以前私の夫の会社と付き合いのあるコンサルタント会社に勤務しており、その関係で夫のサッカー友達として共にプレーをする仲であった。
Rさんが、その後ノルウェーでも一番大きい企業に転職した後も、引き続きサッカー友達として付き合いがあるようである。
私も、どこかのパーティー(いわゆる飲み会)か何かでお会いし、気さくに話をし、よい印象を持っていたが、特に深い付き合いがあるわけではなかった。

ノルウェーでは不動産を購入したり、家を建てたりするのが、平均して、日本人がそうするのより、幾分か若い年齢の段階で行われるように思う。
日本人は平均して、何度家を買うのだろう。たいていの投資目的でない人達は1,2回だろうか。ノルウェーでは日本人よりも割りと軽いのりで不動産を購入することが多い。
かくいう私たちも一昨年マンションを購入したが、私の夫にとっては二回目のマンション購入となるのだった。(1回目は学生時代に家族とともに購入。すでに売却済み。)
やはり、恵まれた労働条件と、政府の税制政策によるものだろうか。(ローンを持っていると、かなり大きく免税税度がある。)また中古物件が市場価値をもっているという点は大きな理由としてあるのではないだろうか。

Jさん夫妻も例にもれず、私たちと同世代だが子供がすでに2人いることもあってだろうか、
土地を購入し、生涯の棲家を建てる決心をしたようである。
Jさんは地方自治体から、新しい住宅開発地域において破格といえる値で土地を購入し、あとは家の設計を誰に頼むかを決定するのみとなった。
Jさんはこの地域の出身であり、どちらかというと村社会であるこの地域の情報に関しては、
抜かりなく手に入るようであった。

Jさんの情報収集の一環として、私にも声がかかり、建築家としての興味で土地を見に行き、一般的な意見等を述べていた。(土地の条件等については、後日詳しく述べるが、高低差があるその土地で、おもしろい計画ができるかもしれない等)
当時、勤め人であった私は、上司に自分の知り合いで家の設計を私に頼むことを検討している人がいるが、それを個人で受け持ってよいものか、それとも事務所で受け持つべきか相談した。
上司の意見は、家の設計はなかなか一筋縄でいくものではないし、私の経験不足もあるので、友人との信頼関係を壊さないためにも、事務所がサポートするというきちんとした形で引き受け、事務所を通じて仕事をすることを進められた。親しい親族や、本当に親しい友人等ならば、事務所で仕事をしながら、空き時間に個人で設計することも悪くないと思うとのことであった。
よって私はその旨をRさんにお話し、事務所として仕事を受け持つ場合の契約条件等を提示し、熟考される旨伝えた。
それは今から一年近く前の話で、正直私はそのことをほとんど忘れた形で、
この度事務所を退社するに至った。(タイミング的には妊娠とかなりドンピシャな退社なのだが、妊娠が発覚する前に自分自身で決めていたことであり、私の時間の使い方等、個人的理由による退社であった。上司には、また戻ってきたかったら声を掛けてねと言ってもらっての円満退社であった。)


この1年間、Rさんはいろいろな方とコンタクトを取って、お話をしてきたらしい。
ノルウェーには日本のハウスメーカーとまったく同じ性格の企業はないのだが、似たような形で数十種類の家のプロトタイプを持ち、それを組み合わせるような形で家を作る企業はある。
Jさんもそういう企業とコンタクトを取ったが、出されたプランは高低差のある土地をフラットに整備し(ちなみに、ノルウェーの住宅地では日本のそれと違い基本的に区画整備されない。それがゆえに、元来の土地の起伏がそのまま保たれ、場合にいよっては、自然の地形そのものにいくつかの家が点在しているというランドスケープ的に優れた結果を出すことも可能なのだと思う。)その上に彼らのもつプロトタイプのうちの一つがポンとおかれるといったものだったらしい。
そうなってしまうと、オリジナル性は皆無で、個々の土地に対する答や個々のクライアントの暮らし方に対する考え方への答を一般解で出されてしまうということだ。ことほどつまらないものはない。Rさんもそう思われたようだ。

土地、クライアントに各々の独自解を与えるのが、我々建築家の仕事で、それこそ建築家の出番である。

ハウゲスンには建築事務所が4つほどあり、また私の勤めていた事務所を辞めて、独立開業している人が少なくとも2人いる。Rさんはそのうちの一人の方とも話されたようだ。彼(建築家)は予算的に高めの家を設計したいようで、Jさんにとっては少し高すぎると、また予算を抑えるということに対して、柔軟性に少し欠けるとの思いであったようだ。

このようないきさつを経て、Jさんは私の事務所で私担当で設計を依頼する旨決意してくれたらしい。
この夏、私は割と長いこと日本にいて、夫も初めの3週間はともに来日し、その後ノルウェーに帰っていった。
ある日、毎日の夫との国際電話の中で、Jさんから夫に電話が来、Jさんが私の働いていた事務所に電話したのだが、そこで私が退社したと聞いたということであった。そしてJさんは、夫に私が個人で家の設計をすることに興味があるかと尋ねたという。

建築家としては、答えは当然YESである。もちろん、資格的な問題、経験の問題、また私の出産を控えた体の問題、今後出産を伴い日本に比較的長くいるという物理的問題等、様々な問題は容易に思いつくものの、好奇心と仕事への野心という意味では、これは非常に魅力的なチャンスにうつる。
夫があらかじめ、私が妊娠している旨、またそれに伴い私が今後割と長期間日本滞在予定の旨等は伝えた上での依頼であったのだが、より細かい事項を詰めるため、私とJさんのe-mailによってのやりとりが始まった。
夫にあらかじめ、基本的な私の料金の希望は伝えてもらってはいた。が決めることは他にもいろいろとあり、この際に大変参考になった書籍がある。

最高の建築士事務所をつくる方法 湯山重行 
設計者のための独立開業・運営ガイド
株式会社エクスナレッジ 

である。
建築を志した時から、きっと多くの若者にとって独立開業は夢であると思う。
私も例にもれず、それを常に人生の目標として設定してきた。今現在は自分の経験不足がわかっているので、今すぐに考えているわけではないが、将来の目標として定め、常にそれに向かって歩き、行動しているつもりだ。ということで、今回の帰国時にたまたま書店でこの書籍を目にした私は、手にとってみて、内容のとても具体的な点に引かれ購入した。それが今回役に立ったわけである。

その中の一節でクライアントとのコミュニケーションが建築家(設計事務所運営者)の仕事内容の3割ほどにあたるというフレーズがあった。
確かにそうだろうと思う。特に住宅設計の場合、クライアントにとって、人生で一番大きな買い物になることも多い。そして、家を建てるという経験は初めての経験であることが多い。
よって、不安なこと、確かめたいこと多々あると思う。そのひとつひとつの疑問に我々は確実に応えていく、真摯な態度が重要だろう。
ノルウェー語でのコミュニケーションは私にとっては未だ、時間のかかり、エネルギーのいるものだが、経験の少ない、若い私に、一生の家というものをかけてくれたクライアントの心意気に感謝し、それに応えられる仕事をしようと日々励むのみである。


今物件を通して、今までの段階で学んだことは、常に前向きに、そして自分のできることとできないことをはっきり伝えるということである。経験が少ない等は事実あるわけで、わからないことも多い。しかし、それをわかったふりはせず、クライアントと共に、手探りでひとつひとつ解明していく。それによって共に学び、共によりよいものづくりに一歩前進しているのだと思う。
自分の今の実力はまだまだだ。しかし、それを卑下することはないし、必要以上に恐れることもない。私にはポテンシャルがあり、それをこの機会で伸ばすと考える。正直お金にはあまりならないのだが、経験はなにものにも変えがたし。
クライアントとともに作り上げるというスタンスのもと、ベストを尽くしたいと思う。
そしてなにより楽しむことである。設計というのは本当に楽しい行為であるからだ。クライアントの将来の生活を思い浮かべ、そこに笑顔があること。様々な経験をこの家を通してしていくんだなということ。
その一端となれることに、至福の喜びを感じる。


私の尊敬し、大好きな建築家の一人である内藤廣が著作「建築的思考のゆくえ」の中でいわく、
建築家の仕事は空間をつくることではなく、その空間ではぐくまれる(営まれる)時間をつくることだ
という趣旨のことを言っておられた。とても深い言葉だ。その建築の、20年後30年後、果ては持ち主が変わった後も含めた、時間を作ること。難題だが、挑戦しがいのある、課題である。

ちなみに、今回の基本設計に関して、私をノルウェーにおいて個人事業主という形で登録するかどうかは未定だ。
というのも、動く金額が微量であり、人々から税金を徴収することに非常に熱心なノルウェー政府は個人で仕事を受け持つ場合、事業として登録しなければならない収入の限度というのがあるのだが、それに引っかかるかどうか微妙だからだ。いずれにしても、今後を見据え正しい形でやっていくつもりではある。
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by motokologic | 2009-09-30 09:41 | Architecture
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